――ガチャッ

「こんにちはー。今日もみなさんお揃いで」

「よう、
「……ああ」
「んー」
「こんにちは、先輩」

 昼休み。いつもより少し大きめのお弁当を持って屋上へでてみると、珠紀を除いたいつものメンバーの姿がそこにあった。
 口数が少なく、なんだか元気も無さそうに見える守護者達。けれど敢えてはそれに気づかないフリでわざと大きな声を出し、挨拶すると

焼きそばパンを齧りながら。だとか
眠そうに目を細めて。だとか
クロスワードの雑誌を見ながら手だけで。だとか
しっかりこちらを見て笑顔を見せてくれたり。だとか

 かなり個性的ではあるけれど、全員がを認識し、きちんと返事を返してくれた。
 
 少し前とは違う、彼らの態度。自分はこの人達に受け入れて貰えてるのだと感じられて素直に嬉しい。
 こんな時にそんなことを……。とは思うけれど、抑えきれない喜びにはついつい頬を緩ませ
今では自分の特等席となった場所に腰を下ろした。

 さぁっと吹いてくる柔らかな風に季節の匂いを感じて、青い空に浮かぶ沢山の羊雲を見ながら秋だなぁとふっと息を吐く。
 遠くから聞こえる誰かの声をなんとなしに聞きながら、珠紀さん遅いなぁと呟くと、の呟きが聞こえていたかのようにタイミング良く屋上の扉が開き
こちらの様子を窺うように珠紀がそっと顔をだした。
  
「……なんだ。みんなやっぱりここにいたんじゃない」
「待ってたぞー、珠紀さん」

 ごめんね。そう言っていつものように隣に座り、にへっと笑う珠紀の姿に小さく眉を寄せる。
 明るい声、そして笑顔。見た目だけはすっかり元気になったように思える。けれど、にはまだどこか無理をしているように感じられて。
 本当は平気かと問いたいけれど、でも今ここでそう訊ねてみても、意地っ張りな彼女は大丈夫だと笑うに決まっているから
はわざと本心を隠し、何も言わずニコリと珠紀に微笑んだ。
 そんなに気に病まないでよ、珠紀さん。私達がいるじゃない。そんな気持ちを込めて笑えば、珠紀も笑顔を返してくれて。
 気持ち、少しは伝わったのかな? なんて思って安心しかけたのだが。

「ここにいちゃ悪いかよ。俺がどうしようと俺の勝手だろ」

 少し離れた場所からぼそぼそと、低く、どこか拗ねたような拓磨の一言に珠紀から笑顔が消えて
は余計なことをと拓磨の背中を睨むように見て、眉間に力を込めた。

「……べつに、悪いだなんて言ってないよ」

 珠紀の返事に声も出さずクロスワードの雑誌から目を離さない拓磨に、は深い息を吐く。
 どうしてこう、男子……というより鬼崎拓磨という人は子供なのだろうか。
 ひと目でもいいから雑誌から顔をあげて彼女を見れば、あんな言葉は出てこないはずなのに。八つ当たりもいいところだ。
 そう心の中で文句を言って呆れていると、の心の声が聞こえたのか今まで無言で焼きそばパンを齧っていた真弘が顔をあげ
ニヤリと悪者のような顔で笑いながら、からかう様に拓磨に話しかけた。

「女の心配を無下にするようじゃあ、男は終わりなんじゃねえの? なあ、拓磨」 

「……鴉取先輩。たまには良いこと言う」
「うるせえ、。たまには余計だ。たまに、は」

 独り言のつもりで小さく呟いた言葉に素早く反応されて、は驚きながら苦笑する。ほら先輩、良いこと言ってるのにすぐそんな態度をとるから
いつも本気にされないんですよ? と思って探るように拓磨を見れば、やはり態度のせいか、それとも焼きそばパンを齧りながらというのが悪かったのか
言われた本人である拓磨はついっと顔をあげると「つまらん」と言わんばかりの瞳で真弘を一瞥し、直ぐにまた雑誌へ目線を戻してしまった。

「…………」

 なんだかなぁ。心で思って空を見上げる。
 いつもだったらこの後も、誰かの話で会話が途切れることは無いのに、今日は誰一人言葉を続けようとはしない。
 仕方がないのかもしれないけれど、静か過ぎて切なくってしまう。
 そう思って覗き見た隣の珠紀も、と同じようにぼんやりと空を見上げて黙ったままで、しかも屋上にやってきたはずの彼女の手元には
思った通り何も無く、ああ、やっぱりか、とは小さく息を吐いた。
 食欲が無いのだろう。実を言えばにも無い。けれど一日、何も食べずにいるのは彼女を守る者として良くないと思い
はいつも通り美鶴の作ってくれた弁当を持ってきた。
 今日のお弁当はいつもより大きめだ。朝、珠紀が朝食も摂らずお弁当も持たずに出て行ったと聞いて、美鶴に頼んで多めに詰めてもらった。
 珠紀の置いていった分を持ってくることもできたけれど、それをしたら逆に気を使わせてしまいそうで。
 だから食べきれもしない量をわざと持ってきたのだけど……このままでは素直に食べてもらえるのかどうか分からない。

 でも、それでもひとつくらいなら。そう思ってお弁当に目線を移し、小さめのおにぎりを取り出して顔をあげると
ちょうどの反対側から祐一が、珠紀の目の前にいなり寿司を差し出している所が見えて、は思わず「あ」と小さな声をだした。

「食べるといい。腹に何か入れておいた方が、前向きになれる」
「……あ、ありがとうございます」

 不意打ちだったからか、頬を赤くしながらも素直に祐一からいなり寿司を受け取る珠紀の姿に、ああ良かったとは微笑む。

「祐一先輩、優しいなぁ」

 やっぱり格好いい男はやることが違うな、素敵過ぎる。等と独り小さく感嘆の声をあげていると
どうやらそれは真弘の耳にも届いていたらしく、真弘はじっとをみると
「おい、。おまえ顔がめちゃくちゃだらしないぞ」と半ば呆れたような顔でに向かって声を掛けた。
 途端に「は?」と短い声をあげて珠紀から目線を外し、はムッとした顔を作ると口を尖らせ真弘を軽く睨む。

「だらしなくなんてなってませんよ、失礼な。
 それを言うならフィオナ先生を見る時の鴉取先輩の顔の方がよっぽどだらしなくていやらしいですよーっだ」
「な、なんだとーー!!」

 余計なお世話です。と「べぇ」っと舌をだすと、焼きそばパンを握り締めた真弘にジロリと睨まれる。けれどそんな視線に怯むことなく
売り言葉に買い言葉で子供の喧嘩のようにやいやい言い合っていると「困ったものですね」と困ったような笑顔の慎司が珠紀の傍にやってきた。

「珠紀先輩、お弁当忘れちゃったんですか?」
「……うん。って、二人は止めなくていいの?」
「いいんですよ、あれはあれで楽しんでるみたいですから。そんなことよりこれ、受け取ってもらえませんか」

 見慣れた光景ですよ。といわんばかりの態度で二人の様子をチラリと眺めて慎司は、お手製の可愛らしいおにぎりを珠紀に差し出した。

「い、いいよ。それ慎司くんのでしょう?」
「この間はわけてもらいましたから。今度は僕が」

 申しわけないよと遠慮する珠紀に「いいんですよ、どうぞ」と微笑む慎司の姿が眩しい。
 その光景に思わず目を奪われて、は真弘との言い争いを中断して「おおっ」と声を出した。

 鴉取先輩とセットで適当に扱われてしまったけれど、それを軽く流せちゃうくらいに慎司くんの笑顔は素敵だ。
 おまけに優しくて気配り上手で賢くて綺麗な顔で欠点らしい欠点が見つからない男子なんてそりゃあモテるに決まってる。

「癒し系美形男子犬戒慎司。恐るべし……」
「……」

 ああ、ホント癒されるなぁ。なんて、は真弘との言い争いをスッカリ忘れて慎司と珠紀を見つめ何度も「うんうん」と頷く。
 すると完全に一人放置されてしまったことが気に入らなかったのか、真弘はムッとした顔をするとつかつかと珠紀の前にやってきて
彼女の目の前についさっきまで齧っていた焼きそばパンを差し出した。

「……ん。じゃあ、俺のもやるよ」
「それはいりません」

「なにぃ!? おまえな、せっかく人が親切にしてやってんのになんだその態度」
「……いやー。嬉しいけど、食べかけはちょっと……」

 案の定、速攻で断られて逆切れしている真弘を眺めては呆れた息を吐く。
 なにやってんだろこの人は、どう考えても齧りかけの食べ物なんて断られるに決まってるのに。
 というか、食べかけの焼きそばパンを珠紀さんが喜んで受け取ったらどうするつもりだったのだろうと、は拗ねた顔でふくれている真弘に声をかけた。

「言っておきますけど私は突っ込みませんよ、鴉取先輩。というか正直、少し引いたし」
「ぐっ……。おまえなあ! そこはたとえそうでも空気読めよ! 後輩だろうが」 

「はあ? 何でもかんでも拾って突っ込むと思ったら大きな間違いなんですからねっ!」

 そう言って、べーーっ! と舌をだし口を尖らせる。空気読めとかその言葉、そっくりそのまま先輩にお返ししますって。
 心の中で抗議の声をあげ、もう何があっても鴉取先輩には突っ込むものかと限界まで首を逸らせ
何で私が怒られなきゃならないのだと横を向くと、の目に、珠紀の元へやってくる拓磨の姿が見えて
「鬼崎め、今度はなにをする気だ?」と警戒するような眼差しでは、不機嫌そうな、でもどこか照れたような拓磨の顔をじっと眺めた。

「やる」
「え?」

 の視線に怯むことなく拓磨はぶっきらぼうな態度と短い言葉で、珠紀の前にずいっとたいやきを突き出す。
 それから、突然でてきたたいやきに驚いたのか「ぽかん」と口をあけている珠紀に「ちょっと言い過ぎた。悪かった、謝る」と言うと気まずそうに頬を掻いた。

「授業サボってる時に買ったやつだから。まだ、温かいと思う」
「わ、私のために?」
「ついでに二個買っただけだ」

 サボったんだ……。という言葉をぐっと飲み込んで、は戸惑いながらも素直にたいやきを口に運ぶ珠紀を見て目を細める。
 まぁ、子供っぽいところが多々あるけれど、鬼崎くんも実は良いヤツだしね。と思いながら「温かい」とたいやきをひとくち齧って
嬉しそうに笑う珠紀をほんわりとした気持ちで眺め、それからなんとなしに顔をあげると
 そこには、珠紀を見ながらはにかむような、そしてどこか満足げな顔で微笑む拓磨の姿があって
はあれ? と小さく眉を寄せた。

「……ううむ。って、そうだった。それじゃあ私も、じゃーん! 美鶴ちゃん特製お弁当、特大バージョンのお裾分けでーす」
「大きいお弁当だね……」
「お腹空いてたから今日は特別。ま、細かいことは気にしないで、じゃんじゃん持ってってー!」

 もしかして、鬼崎くんってそういうこと? なんて清乃の言う『ブルースプリング』な予感を勝手に感じながら
はお弁当箱の蓋をお皿代わりにおかずを盛り付け、はい、と何かを含んだような笑顔で珠紀に手渡した。

「あ、ありがとう」

 でんっと蓋に盛られたおかずの山の、その量の多さに困惑しながらそれでも笑顔で礼を言う珠紀に、どういたしましてと頷いて
は美鶴お手製のおにぎりに手を伸ばす。それからもぐもぐと、おにぎりかじってみては珠紀をコッソリ眺め、拓磨を観察して
いつもと変わりない二人の様子に、さっきのは自分の勘違いだったのか? と首を傾げていると 
慎司が突然「あっ」と声をあげ、の名前を呼んだ。

「ん? なになに?」

 声をかけられ、お弁当から顔を離してどうしたの? と訊ねる。すると慎司は何やら複雑そうな顔でを見つめて
「朝から大変だったそうですね。大丈夫ですか?」と告げた。

「……へ? 朝?」

 朝からって一体なんのこと? 朝から慎司くんに心配かけるような出来事ってあったっけ? 意味が分からずキョトンとした顔で首を傾げ
慎司を眺めていると、の態度の意味に気がついたのか慎司は驚いた顔でを見て「あ、あの……」と言い辛そうにもごもごと口を動かした。

「え? な、なに?」

 口を開いては閉じて閉じては開く。そんな彼の不審な挙動に困惑しながら再びどうしたのかと問いかけると
慎司は顔を赤くしたまま「じっ」とを見ると、覚悟を決めたような顔で口を開いた。
 
「僕、聞いたんです。先輩が朝からその……ワイルドな男子生徒に強引に迫られたと」

「…………え?」

「な、ななななにぃ! 本当か、!!」

 慎司の口からでた言葉に絶句して、の身体が金縛りにあったように固まる。
 すると言葉のでないの代わりに真弘が食べかけの焼きそばパンをこぼしながら大声をあげた。

「……あ、焼きそば落ちた」
「おおっ! 俺としたことがっ……って、バカ! そうじゃねぇ!!」

 驚き過ぎたせいか、まるで他人事のような気持ちで冷静に焼きそばの実況をすると、それどころじゃねえだろ! と真弘に突っ込まれ睨まれる。
 そんな真弘の迫力に圧され、思わずは反射的に「すみませんでした」と頭をさげて……ハッと我に返った。

 そうだ、確かに焼きそば勿体ないけどそれどころじゃない。落ちた焼きそばから目を離し、未だ顔の赤い慎司を見上げては唸る。
 どうしよう、なんて返事をすればいい? というかその前に、どうして慎司くんが知ってるの? 誰に聞いたの? どこまで知ってるの?

 ああ、聞きたいけど怖くて聞けない……。

 複雑な感情と不安と恐怖で心臓が妙な動きをしている。けれど今ここで、ちゃんと言葉を選んで返事をしないと
皆、勝手に解釈してとんでもない誤解をするに決まってるし。
 あーやだやだ。でも、気が進まなくても仕方ない。と、は引き攣る頬を必死でおさえて「ニコッ」と
わざとらしいぐらいに笑顔を作ると、心配そうな顔で自分を見る慎司に問いかけた。
 
「慎司くん。あのさ、だれから……その話を聞いたのかな?」
「あの、昼休みに入ってすぐ多家良さんが僕の教室にやって来まして……それで心配だから様子を見て欲しいと頼まれたんです」
「た、頼まれたんだ……」
「はい……」

 …………。

 きよのこんにゃろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉー!!


 声にならない叫び声をあげてぎゅっと唇を噛み、拳を握ってはその場に立ち尽くす。
 怒り心頭。と言わんばかりの彼女の態度に、自分のせいだと勘違いしたらしい慎司に「余計なことをしていまい、すみませんでした」と頭を下げられ余計に怒りが湧く。
 ヤツめ、関係の無い慎司くんまで巻き込んで一体どういうつもりだ。わざわざ彼の教室まで行って報告すること? 
 いや、言わない。わたしだったら言わないね。というか様子なんて教室近いんだから直接見に来れば分かるでしょうに。

 黒い尻尾を生やし、ニヤニヤと笑う清乃の姿を想像してぐぐぐっと眉を寄せる。アイツめぇ、面白がってる、絶対面白がってる!
 
「チクショウ。清乃、いつか必ず仕返ししてやる……」

 ぶつぶつと呪いに似た言葉を低い声で呟き、清乃めどうしてやろうかとぷりぷり怒っていると
 ふと全身に妙な気配を感じ、はなんだろうかと顔を上げる。そして顔をあげた瞬間、目を限界まで見開き短く「えっ」と声をあげて絶句した。

 ――な、な、なにこれ……。

 気がつけば、まるで自分を取り囲むような形で守護者達が、好奇心やら驚きやら様々な感情をのせた眼差しで自分を見ている。
 いつの間にこうなった……と、自分の置かれた状況にやっと気がついたは、全身の毛穴が一気に開いたような感覚に囚われながら
色気の全くない叫び声をあげ、全員の視線から逃れるよう凄い速さで後退った。

「う、うわぁぁぁぁ!? な、なんでもないんです! 誤解です!」
「誤解……なのか?」
「いやっ、そうでもないこともなくもないんですけど……誤解ってことにしたいっていうか!」
「……どっちだよ」
「た、ただちょっとからかわれたって言うか! そ、そうだ、それを言うなら珠紀さんだって。ねえ!」

「……ええっ!?」

「なっ!? ど、どいうことだっ! 珠紀!」

 慌てて誤魔化そうとするも、探るような祐一の視線と有無を言わさない拓磨の突っ込みに混乱して、は助けを求めるように珠紀を見る。
 けれど混乱しすぎたせいか、縋る為に掴んだ藁を思いっきり水中に引きずり込むように、咄嗟に珠紀も同じ目に合ったと口にしてしまい
直ぐにハッと気がつき慌てて口を押さえてみたけれど……時、既に遅く。
 珠紀はおかずの入った蓋を横に置き、スッと立ち上がると仁王立ちでを見下ろし、握った拳をわなわなと震わせ
怒りと羞恥で顔を真っ赤に染めながら信じられないとに向かって叫ぶような大声をあげた。

ちゃんのバカッ!! 裏切りものーーーー!!!」
「ひぃぃぃぃぃ! ごめんなさいぃぃぃぃ!!」

 こ、怖い。珠紀さんが超怖い……。
 これが玉依姫の本気なのかと彼女の迫力に追い詰められ、壁を背にして子ネズミのような気持ちで震えていると
直ぐ傍から「おいっ」と少々不機嫌そうな声が聞こえてきて、は縋るような気持ちで声の方へ顔を向ける。
 けれど声の主が真弘だと気がついた途端「ああ、この人じゃあダメだ」とは諦めに似た気持ちでヘニョリと眉を下げた。
 
「おいコラ珠紀に、喧嘩してる場合じゃねえだろっ! お前達に強引に迫ったってヤツは一体どこのどいつだ!!」
「えっ? ……あーえっと、ほら、その……と、通りすがりのワイルドな学生ですっ」

 こういう時のこの人は頼りにならない……まあ、分かっていたことだけど。
 そう思って真弘を見れば、思った通り真弘は犯人を探し出すことに気持ちを向けていて
この人に真実を話したら大騒ぎになるに決まってる。と、は怒っているように見せて実は楽しそうな瞳の真弘に曖昧な答えを返した。

「ああ!? なんっだ、それは!」
「なんだって言われてもそれ以外に言いようないし! だよねっ珠紀さん!」
「へ? あ、う、うんっ! そうだね!」

 これ以上、最悪なことにはなりたくない。と、誰とは言わず誤魔化して、は同意を求めるように恐る恐る珠紀に声をかける。
 すると彼女も突然振られた割には同じ気持ちだったのか、直ぐにの言葉に合わせてコクコクと頷いてくれて
はほっと小さく息を吐くと、真弘に向かって笑顔を作った。

「も、もういいじゃないですか。事故ですよ事故! 珠紀さんも私も突然現れた野良犬に嗅がれたってことで……」
「お、おう、そうか。って! 大問題じゃねえか! 吐けっ! オラッ! 言えっ!」
「いやぁーーーーもう無理ぃ! 助けて珠紀さーん!!」
「えええっ!?」

 半ば脅すように、強引にせまってくる真弘の重圧感に耐えきれず、珠紀に助けを求めると
彼女は無理だと言いたげに勢いよく何度も首を振り、出口に向かって後退さる。

「嘘っ!? ヤダー! 置いてかないで珠紀さんっ!」
「だ、だってー! ああもうっ、ちょ、ちょっと待って! えっと、えぇっと……あっ! そ、そういえば、今日おばあちゃんが帰りに家に寄りなさいって!」

「「「「……!?」」」」

「へ……」

 扉を背にしてから目線を逸らし、今にもこの場から逃げ出しそうな珠紀に見捨てないでと懇願すると
良くも悪くも責任感の強い珠紀は、必死に何か言わねばという顔で意味の無い言葉を繰り返し……それから「あっ」と声をあげて
守護者の誰もが今一番聞きたくなかったであろう言葉を吐き出した。

「……小言、か」

 追い討ちをかけるように呟いた祐一の一言に、守護者達の顔が歪んでゆくのが見える。
 
 ――やっちゃった……。 

 一気に気温が下がったのかと思えるぐらいにガラリ変わってしまった屋上の雰囲気に困惑しながら、は心の底から「しまった」と後悔する。
 どう考えても無理やり珠紀さんを巻き込んで、動揺させてしまった自分が悪い。
 珠紀さんに負担をかけないようにしようと今朝そう決めたばかりなのに、昼休みの時点で忘れる私って一体……。
 ……ほんと、呆れちゃう。そう思って申し訳ない気持ちで珠紀を見ると、向こうも丁度こちらを見たらしくバッチリ目があって
珠紀とは見つめあったまま、互いに気まずいなぁと眉を寄せた。

 なんとかしなければ。心底そう思う。けれど思った所で自分ではもうどうすることもできなくて。
 ああもうこうなってしまったら開き直るのが一番だとは半ば現実逃避する気持ちでニッコリと微笑むと

「とりあえずさ、お昼休み終わる前にこれ食べちゃおっか。ね、珠紀さんっ」
「そ、そうだね!」

 暗い顔の守護者達の姿を極力見ないようにして珠紀と二人、頬を引き攣らせながら残ったおかずに箸を伸ばした。