『わたしの物語』幕間1


 ――最近、ちゃんの様子がおかしいんだよね。

 と、何気なく呟いた珠紀の一言に守護者達は一斉に顔を見合わせた。

 珠紀曰く、こんな風にみんなと帰らない日は、誰よりも早く学校をでているのに帰ってくるのが一番遅い。
 そしていたるところに傷を作ってくるのだという。

「どうしたの? って聞いても転んだだけだって笑うだけで教えてくれないし…」
 ――大丈夫かなぁ、ちゃん…。

 心底心配そうな顔で俯く珠紀を横目で眺め、守護者達は珠紀に気づかれないよう大きなため息を吐いた。
 
「怪しいだろ、どう考えたって」
「……ああ」
「怪しすぎですよね」
「……ハァ〜」

 どっからどう見たって怪しさ満点だというのに、目の前の玉依姫は自分達を眺め「どうしたのだろう?」と首を傾げている。
 そんな彼女の姿に「おまえもう少し警戒心を持てよ」と言いたいが、どうせ言ったところで無駄なのだろうと
守護者たちは全員揃ってもう一度、深い息を吐く。

「じゃあまた明日ね」
「……ああ」
「おう、じゃーな」
「さよなら、先輩」
「またなー」

 こいつは玉依姫としての自覚があるのだろうか。全員が不安に陥りかけた頃、タイミングよく神社の前に到着し
バイバイ。と笑顔で手を振り階段を上って行く珠紀の姿を守護者達は複雑な気持ちで見送って、姿が見えなくなると同時に互いに目を合わせ頷いた。

「さて、誰が行く?」
「交代で、ってのはどうっすか?」
「……それでは珠紀に怪しまれるだろう」
「そうですね、いくら鈍い先輩でも日替わりで守護者が別行動だなんて流石に怪しみますよね」
「そうだな。流石に鈍い珠紀でも気がつくか」
「そうっすね、鈍いヤツでも気がつきますね」
「……気がつくな、鈍くても」
「ええ。そう思います」

 ――この人達は本当に守護者なの? 玉依姫のことバカにしてない?

 珠紀本人が聞いたら確実に怒りだしてしまうであろう台詞を真剣な面持ちで吐き出して、守護者達は「うーん」と唸った。
 のことは放って置けない。が、珠紀に見つかるのはマズイ。のことを完全に信用している珠紀のことだ
監視しているのがバレたら何をしでかすか分からない。
 はてさてこれは困ったどうしよう。と、全員で頭を悩ませているとみんなより少し低いところから「仕方ねえなー」と声がして
頭をガシガシと掻きながら声の主である真弘が「分かった。じゃあ俺が一人で見張っておいてやるよ」と頷いた。

「真弘先輩が?」
「ああ、俺様が一人でやってやる。何があっても俺様なら問題ないだろう」
「「「……」」」
「な、なんだよその、思いっきり不安そうな目は!!」

 先輩様に対してなんだその失礼な態度は! と、拓磨に殴りかかる真弘の手の早さに不安を覚えるも
本気を出した真弘は誰よりも頼りになるのを理解している3人は、彼が行ってくれるのなら安心だろうと頷いた。

「ではお願いします、真弘先輩。くれぐれもお気をつけて」
「頼りにしてるぞ、真弘」
「先輩、格好いいっす」
「お、おう。まかしとけ! この鴉取真弘先輩様にかかればどんな問題も即解決よ!」
「……珠紀には真弘はしばらく補習で遅くなると伝えておくから安心してくれ」
「はぁ!?」
「そうっすね、それが一番っすね」
「それなら珠紀先輩にも怪しまれないですね」

「お、お、おまえらっ!! ちょっとそこに一列に並びやがれ!!!!」

「あ。じゃ、そういうことで」
「お疲れ様でした、先輩」
「…また」
「おいこら! 待てーーーー!!!」

 わなわなと、怒りに拳を震わせた真弘から逃れるように笑顔の3人はバラバラに去って行き、それを追いかけるように真弘が走りだす。
 静かな田舎の道に真弘の絶叫がこだまして。そしてそれはゆっくりと遠ざかり、やがて小さくなって木々の隙間に融けて消えた。